家の中に飽きたのか、ニジサンはよく一人で外に出かけるようになった。必ず鉛筆とノートを持っていく。絵日記でも描いているのかもしれない。
僕はいちおうアルバイトの身分なので、昼間はファストフード店で働いている。村にある唯一のジャンクフード店だけど、満席になることはほとんどない。店員も、僕と店長ともう一人だけで、その人とはシフトの関係で滅多に会うことがない。
店長は接客担当で、僕はキッチンスタッフだ。仕事量は確実に僕の方が多い。
「最近、君、調子よさそうだね」
ささやかな客足のピークが過ぎると、驚くほど何にもすることがなくなる。店長との雑談も業務の内に入るんだろうな、と僕は認識していた。
「そうですか?」
「何か、いいことでも、あったのかな」
店長は喋り方がゆっくりなので、たまにせっかちなお客さんが来ると怒られてしまうことがある。僕は店長のスローペースは特に気にしない。
「いいことかは分かりませんけど、少し家が賑やかになりましたね」
「ほう。ペットでも、飼い始めたか」
「まあそんなとこです」
ペットと呼ぶには少し大きすぎるかもしれない。
店長のひげは、漫画みたいにくるん、と弧を描いて先端が丸まっている。見るたびに引っ張りたくなるのだが、首になりたくないので我慢している。
でもちょっとぐらいなら、ばれないかな。いやばれるかな。
今度、店長が居眠りしている時にでも試そうと思った。
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