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スクラップ帳

村役場に保管されているかもしれない。
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ここみん迷宮

 私はそんなに寝つきがいい方ではありません。それどころか、寝入るまでに何時間もかかることも稀ではないし、そのおかげで生活時間帯もずれにずれています。
 外に出ない生活をしていると、自然と不摂生になっていきますし、それが当たり前の状態になってしまうので、今日は具合が悪いなあ、と思うことさえなくなっていきます。だって、具合のいい日なんてないんだから。
 私は昨日も時計を気にしない一日を過ごし、時刻を確認しないままに床に就きました。睡眠時間だけは平均よりも長く摂るようにしています。なぜって、夢の中の方が、現実よりも快適だから。
 そして、目覚めた今日。私はなんともいえない違和感を覚えました。部屋の内装も、置かれている家具も、棚に収まっている本も、何から何まで昨日と同じなのに、どこか決定的に違うものがあると、直感が訴えているように思えたのです。
 真っ先に疑ったのが、身体の不調でした。
 たとえ毎日のように調子が悪いにしても、グラフが横ばいならばそれが平常です。だから私の身体がより一層、具合を悪くするための坂を下り始めたのであれば、その兆候を不穏なものとして察知してもおかしくはないな、と考えたのです。
 けれど違和感の正体は全くの別物でした。普段なら決して引く気になれない遮光カーテンの裾を掴み、隙間から外を覗いてみた私の目に飛び込んできたのは、鼠色のマーカーで塗りつぶしたような見慣れた町並みではなく、まるで見覚えのない、鮮やかな緑地が広がる山林風景だったのです。
 私はそっとカーテンを元に戻すと、その場にへたり込みました。安直に夢だと言い出すような真似はしません。夢ならば現実よりも快適なのですから、現状にはまったく当てはまりません。頬をつねるまでもないし、他にするべきことはいくつもあります。
 よろめきながら立ち上がり、ドアノブへもたれかかるように手を伸ばします。
 不本意ですが、家族に相談するしかありません。たとえ一月の会話時間が、電子レンジの使用時間よりも短い親子関係だとしても、こうした異常事態には互恵関係を築かざるを得ません。彼らの娘というだけでこんなにも骨身を削って生きているのですから、親として、正しい対応に腐心してもらうのは当然のことです。
 私はドアを開いた姿勢のまま、彫像のように凝固しました。
 視界に映りこんできた光景。
 それは、左右に伸びたフローリングと真っ白な突きあたりの壁ではなく、申しわけ程度に舗装された砂利道と、点在する電信柱。遠くには展望台らしき建築物や、コンビニエンスストア。人家らしきものも見えます。
 ざっと二十秒はそうしていたでしょうか。私はドアを閉じて、ベッドに横たわりました。
 私はそんなに寝つきがいい方ではありません。現実を夢だと信じるような馬鹿な真似はしませんが、現実が夢を否定するというのなら話は別です。もう一度夢を取り戻して、現実を否定し返してやるのです。でなければこの仕打ち、堪えられたものではありません。
 だから私は瞼を閉じて、好きな歌を口ずさんで時間をやり過ごしました。時間が夢を私に落とすまで、いつまでも。
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