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スクラップ帳

村役場に保管されているかもしれない。
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ニジサン

 年齢はよくわからない。名前もない。
 国籍もわからない。肌の色は僕と同じだけど、髪の毛は赤茶色。
 最初の二日間は一言も喋らなかった。
 三日目になってようやく、まともな会話ができた。
「ここ、どこですか」
「ここは、僕の家だけど」
 日本語を喋れるということは、日本人だろうか。
 見た目の年齢は、十代前半。食事はよく食べる。排泄と入浴は一人でできる。髪の色はただの汚れだったらしく、浴室から出てきたら黒髪だった。
 特にして欲しいことはないので、あとは適当に本棚の本を読ませたり、ノートを与えて絵描きをさせたり、テレビを見せたりしている。
 名前がないと不便なので、どんな名前がいいか聞いてみた。
「23番、と呼ばれていました」
 店員に付けられていた商品番号らしい。それ以前の記憶はないようだ。
 にじゅうさんばん、だと長いので、ニジサン、と呼ぶことにした。
 どう書くのかを聞かれたので、当て字で「虹山」と書いてあげると、その日は一日中、虹山虹山とノートに書いていた。
 ニジサンは、驚異的な早さで生活に慣れていった。環境適応能力が、生まれた途端に立ち上がる子鹿並に高い。
 ある時、友人の島村が尋ねてきて、ニジサンを見て驚いたふうに言った。
「おまえが奴隷を飼う日が来るとはなあ」
「奴隷って流行ってるの」
「流行ってるっつーか、ステータスだな。一昔前で言う、外車とか新築住宅とかと同じ」
 まるきり物扱いだった。
 ニジサンは、島村と目を合わせようとせずに縮こまっている。机の上に乗っているサボテンの針をじっと見つめている。
 我が家の名も無きサボテンは、島村が「一人暮らしは寂しかろう」と根拠もなく言ってきて、百円ストアで買ってきたものを強引に置いていったものが、そのまま生息している状態だった。
 ニジサンはサボテンを初めて見るのか、興味深そうに眺めたあと、おそるおそる手を出して針に刺された。
 以来、監視でもしているつもりなのか、暇さえあればサボテンと睨めっこをしている。
「ニジサンて言うのか、この子」
「うん」
「服はどうしたんだ、これ。ユニクロか」
「うん」
「動かねえな、さっきから」
「うん」
 サボテンを眺めるニジサンを眺める島村。それを眺める僕。おもしろい顔だなあ、といつも思う。口に出すと怒られるので言わない。平和な水曜日の午後。
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