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スクラップ帳

村役場に保管されているかもしれない。
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イヤの日

『今日は、イヤの日です』
 朝の町内放送で、村長がそんなことを言っていた。カレンダーの日付を見ると、一月八日。
 なるほど、と思った僕は、ニジサンさんの耳掃除をしてあげることにした。
 始めの内はくすぐったがって触ることもできなかったけれど、最近では自分から耳かきを持ち出してくるようになった。
 あまりに頻繁に持ち出してくるので、よっぽど気持ちいいのかと思うのだけど、やりすぎても耳によくないので、耳かきを入れた引き出しには鍵をかけておくことにしている。
 ニジサンの頭を膝に乗せて、耳かきの先端を、小さな耳に差しこむ。使っているのは一般的な竹製の耳かきだけど、後端についている梵天がふわふわの羽毛でできていて、耳に当てるだけで気持ちいい。この柔らかさひとつ取っても、日本に生まれてよかったと思う。
 ほとんど垢もないのだけど、じっくり時間をかけてやらないと後で不満そうな顔になるので、なるべくゆっくりと作業する。こんな時のニジサンはいつも猫のように丸まって、終わるまで目を閉じている。
 ふいに、呼び鈴が鳴った。
 僕はそっと膝を上げながら、クッションを下に敷き、ニジサンの頭を慎重におろす。熟睡してしまっているのか、目を開ける様子もない。
 玄関のドアを開けると、友人の島村が沈痛な面持ちで立っていた。
「負けた……完膚無きまでに、負けた」
「負けた?」
「今日って、勝負事の日だろ」
「え、そうなの」
「今日こそいけると思ったんだよ……惜しかったなぁ」
 言いながら、何の断りもなしに靴を脱ぎ始める。よほど外が寒かったのか、頬が赤くなっている。
「ギャンブル?」
「ある意味では、そうだ」
 どかどかと遠慮なく上がり込んできた島村は、寝こけているニジサンを視野に入れると、声のトーンを抑えた。
「お茶くれ」
「勝手に飲め」
「頂こう」
 飲みさしの温いお茶をぐびぐびと飲み干すと、島村はふぅとため息を吐く。
「元旦にさ、おみくじ引いたじゃん?」
「引いたね」
「おまえら大吉だったじゃん?」
「だったね」
「俺だけ大凶だったじゃん?」
「だったね」
 テンポよく続いた会話がそこで止まり、島村は何かに堪えるようにぐぐぐとこぶしを握りしめた。
「許せんだろ」
「まぁ、過ぎたことだし」
「ダメだろ! 俺だけ仲間外れにもほどがある。同じおみくじでも天と地の差がある。同じ哺乳類なのに、人類とカモノハシぐらいの差がある。カモノハシっつったらおまえ、卵生むんだぞ。哺乳類のくせに」
 奴ら爪に毒もってやがるんだぜ、と島村はすでに話の方向性を見失いかけていたが、ニジサンが起きそうになったので、瞬時に口を閉ざした。
 十分に間をおいてから、いっそう小声で続けてくる。
「……で、だからだ。買いに行ってたんだよ。おみくじ。毎朝」
「ご苦労なことで」
「二日に凶、三日に末小吉、四日に末吉、五日に吉、六日に小吉、そして昨日、中吉! 俺は順調に最高なおみくじライフを過ごしていたんだ。だっていうのに――」
 すっと島村が差しだした掌には、くしゃくしゃになったおみくじがあった。
「また大凶ってどういうことだよ! おかしいだろ」
 元旦から一週間も通いつめるなんて、神様もうんざりしただろうなあ、と思いながら、僕はお茶を入れ直す。
 あるいは、嬉しいから大吉を出さないようにしているのかもしれない。
 と、特に信心深いわけでもないけれど考えて、小さく笑った。
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