勤務先のここみんバーガーに着くや否や、店長が喜色満面の笑みで出迎えてくれた。
あまりにもいい笑顔だったので、先日店長が居眠りしている時に、興味本位でひげを引っ張ったところ、何十本かぶちりと抜けてしまったことがバレたのたろうか、と不安になった。後で付け直しておいたのだけど。
「クビですか?」
「何、言ってるんだい。大変だぞ。すごいことが、起きた」
「すごいこと」
「村長が、帰ってきたんだ」
「え」
僕は固まった。なぜ固まったのかというと、村長が不在であることを、今の瞬間まで知らなかったからだ。当たり前のように毎日を過ごし、なんの疑問もなく村を練り歩いていた。
店長の話によると、何ヶ月も前から不在だったらしい。
「でも町内放送はやってましたよね」
「あれは、代理の人が、やっていたんだよ」
代理の人なんていたのか。初めて知ることばかりだった。
「それと、これは、個人的なことなんだが」
「はい」
「以前、貸してあげた、昭和町に関する本が、あっただろう」
「ええ」
「あれを執筆した、私の従兄弟がな。見つかったんだよ」
「見つかった?」
「言ってなかったか。今まで彼は、行方不明になっていたんだ」
またも初耳の話だった。店長の親戚が書いた本だということは聞いていたけれど、失踪していただなんて話は聞いていない。
僕の薄い反応も気にならないのか、店長は終始、上機嫌だった。
「いいことは、重なるものだ。彼は、昭和町の存在をついに確認した、なんて息巻いていたよ」
「はあ」
クリスマスシーズンだというのに、ここみんバーガーはそれらしい商品のひとつもない。よって客足は普段よりも遠退いていた。僕としては楽でいいけど、テンション高めな店長は、微妙に扱いづらかった。
PR